【GPレポート】全日本学生eモータースポーツ選手権 開幕戦

 数名で始まった当部のeSports部内戦は、今や15チーム、25人で争われる立派な学生大会へと進化しました。普段の学連戦と異なり、今回の大会は当部が主催者です。そのため、レギュレーション作成はもちろん、参加者との連絡や広報といった事務仕事や、実況解説といった大会の演出も自ら行わなければならず、大会前の準備として行わなければならない作業は多岐に渡りました。何度も練習会を設けては、オンラインミーティングを行い大会の運営にあたっての問題点の洗い出しやその解決法を討議する日々が続きました。本番前日に大会参加者を招いて行われた前日練習会を終えてもなお、一部の部員は深夜まで作業を続け、本番当日の朝を迎えることになります。

今大会では、合同会社レーシングヒーロー様のご協力を頂き、機材の整った同社隅田ガレージから中継・配信を行える運びとなりました。さらに、当部の選手は隅田ガレージに設置されているハンドルコントローラーを使用することになり、普段の個人所有の環境とは一味違うコックピットから大会に臨みます。

大会当日。最後のミーティングを終えた部員らは各々の配置につき、配信開始時刻を待ちます。そして15時50分、画面内のカウントダウンは0、普段の大会とはまた異なった緊張感を抱えながら、ついに開幕戦の配信が始まりました。

今大会は「グランツーリスモ SPORT」を用いたオンラインレース、全日本学生ジムカーナでもお馴染みの鈴鹿サーキットを、15周で争われます。タイヤと燃料の消費は現実世界よりも早い設定であるため、純粋なスピードのみならず、計画的なピット戦略が求められます。車両はゲーム内の規定でグループ4、現実世界でいうところのFIA-GT4規定に近いクラスのマシンから、各選手が自由に選択できます。選手たちは抽選でAリーグ、Bリーグに振り分けられ、そこでそれぞれ1レースを戦います。2名の選手のそれぞれのリーグでの順位はポイント化され、両選手で獲得した合計ポイントの最も多いチームが総合優勝となります。

16時、Aリーグプラクティス兼タイムトライアルが開始されます。ここでのタイムで決勝スタート順位が決定されるため、プラクティスといえども非常に重要なセッションです。参加車両が次々とタイムを記録する中、当部選手、4年綠川壹丸もアタック。全体で4番手のタイムを記録し、決勝に臨みます。

綠川はこの大会に最初期から関わってきた部員の一人であり、部内では他を寄せ付けないほどの速さを持っています。そんな綠川が選んだ車両はBMW M4。現実世界でも高性能で知られるBMWですが、ゲーム内でもすべての能力が高水準でまとまったバランス型のマシン。「早稲田のエース」としての活躍が期待されます。

16時30分、各車がグリッドにつき、いよいよAリーグ決勝のスタートです。選手の緊張はもちろんですが、この時点でおおむね100人ほどが配信を視聴しており、主催者としての緊張も最高潮に達します。普段の日章旗に代わり、シグナルによるスタート進行。15周にわたる決戦の火蓋が切って落とされます。

4番手スタートの綠川でしたが、ここで抜群のスタートを決め一気にトップへ浮上、ホールショットを奪います。ところが、2コーナーで他大学のポルシェに飛び込まれ、2番手でS字に向かいます。このまま上位を維持したい綠川でしたが、戦略の違いからかペースの良い後続車に次々と攻略され、1周を終えて再び4番手に後退してしまいます。2周目に入ってもう1つポジションを失い5番手となった綠川、これ以上のポジションダウンを防ぐべく奮戦しますが、ヘアピンで他大学と接触し無念のスピン。これで一気に9番手と、順位を大きく落としてしまいますが、綠川は諦めずに、残り13周のレースを戦います。

レースが3周を終えると、上位陣が早くもピットインを開始します。綠川もレースの3分の1となる5周終了時点でピットイン、ソフトタイヤからソフトタイヤへと交換し、引き続きプッシュする構えです。本大会ではソフト、ミディアム、ハードのタイヤコンパウンドから自由に選択できますが、使用制限等はありません。綠川の戦略は、ソフトタイヤ→ソフトタイヤ→ソフトタイヤで繋ぎ、終始ハイペースで周回を重ねる2ピット作戦でした。各車が一回目のピットを終え、綠川は8番手。更なるポジションアップを狙い、懸命に走行を続けます。

コースの各所で順位争いが続く中、綠川は冷静沈着に走り、10周目に予定通りのピットインを行います。ピットアウト時点で綠川は7番手、残り5周でどこまでポジションを上げられるかという展開になりました。

各車が最後のピットインを終えた13周開始時点で5番手まで戻ってきた綠川、優勝争いをするには厳しい状況ではありましたが、1つでもポジションを上げるべく4番手の選手を猛追します。綠川はS字を抜けて4番手を射程圏に捉えますが、その隙に6番手の選手も追いつき、4番手争いは三つ巴の様相を呈してきました。そして13周目のヘアピンで綠川が一閃、インに飛び込み4番手へと浮上します。レースは残り2周となり、綠川は後方の選手との間で4番手を巡るデッドヒートを繰り広げることになります。明らかにペースが優勢な後続車に対し、綠川は必死に防戦を続けますが、14周目のシケインでついに力尽き5番手に後退。ストレートスピードで相手に勝るBMWを駆りなんとか食らいつく綠川でしたが、ファイナルラップとなる15周目の1コーナーで痛恨のコースオフ。4番手の選手に離されるばかりでなく、逆に6番手の選手に追い詰められる苦しい状況になってしまいました。しかし、綠川は意地を見せ5番手を死守、このままの順位でフィニッシュしてみせました。

Aリーグのレース終了後、Bリーグ開始まで短時間の休憩をはさみます。配信も一旦停止され、現場でも一時的に安堵の空気が流れます。しかし、休憩時間とはいえ、のんびり休んではいられません。部員同士でAリーグ中継での改善点を話し合い、Bリーグの演出を考えます。あっという間に時間は過ぎ、17時20分、配信再開時刻を迎えます。

BリーグにおいてもAリーグと同様、予選兼プラクティスセッションを経て決勝という流れです。早稲田大学のB選手は新進気鋭の2年生、最上佳樹。鋭い加速力が武器のフェラーリ458を選択し、8番手タイムを記録します。隅田ガレージのコックピットからドライブする関係上、最上には良くも悪くも現場にいる部員たちからプレッシャーを受けますが、果たしてこれがどのようにドライビングに作用するのかが注目されます。

そして迎えた決勝。視聴者数もAリーグの時からやや増加し、その熱気は留まるところを知りません。シグナルが1つ、また1つと灯っていき、5つ灯ってブラックアウト。各車が一斉にスタートします。早稲田大学の最上は混戦模様のスタートを切り抜け、2つ順位をあげ6番手に浮上します。ヘアピンで後方から接触されあわや、という場面もありましたがなんとか切り抜け、1周目を6番手のまま終了します。しかし依然として集団の先頭を走る最上、7番手の選手とダンロップコーナー立ち上がりで激しいサイドバイサイドを繰り広げますが、2台並んでデグナーカーブに進入、最上が相手選手を押し出す格好となってしまいますが、最上は順位を守ります。

3周終了時点で、最上は他車のミスに助けられ5番手に浮上。後方集団がホームストレートで3ワイドとなるほどの激しいバトルをしている隙に、ペースを上げ前方を追撃する体制に入ります。この時最上は、フロントタイヤをミディアム、リアタイヤをソフトという変則的なタイヤ選択をしていました。最上の用いるフェラーリはフロントタイヤに厳しいマシンであった事が理由です。Aリーグの綠川と同じく2ピット作戦を採った最上。5周を終了した時点で、1回目のピットインを行います。各車が1回目のピットを終えた時点で最上は4番手を走行。その順位のまま2回目のピットを迎え、8番手でコースに復帰します。

レースが12周目に入ると、4番手争いが白熱。なんと4台による激しいバトルが展開されます。レースも終盤というこのタイミングで、8番手を走行中だった早稲田大学の最上もこの集団に追い付き、手際よく3台を攻略、5番手に浮上します。更にレース14周目、ついに最上は4番手の選手をも射程圏に捉えます。猛追する最上のプレッシャーに屈したか、4番手の選手は130Rでわずかにコースオフ。最上は一瞬の隙を逃さず4番手に浮上。ファイナルラップでもそのままポジションを譲ることはなく、4番手でコントロールラインを通過しました。

レースは無事に終了しましたが、当部の戦いは終わりません。主催者ということで、2レースの結果からポイントを計算し、チームの総合順位を発表せねばなりません。普段は結果発表を待つ側ですが、今回はそれをする側。ここでも大会運営の難しさを思い知ることになりました。

こうして確定した総合順位で、当部は4位。2名のドライバーは安定した成績を残したものの、惜しくも表彰台を獲得することはかないませんでした。

今大会は、早稲田大学自動車部として久しぶりの主催大会であるのみならず、eSportsという従来の自動車部活動とは全く異なる新しい試みでありました。すべてが初めての経験で、運営としてはまだまだ改善すべき点も多くありますが、参加選手や多くの関係者の皆様のご協力で、大変「熱い」レースをお届けできたのではないかと考えています。

同時に、1つのエントラントとしての立場からも、上位陣と我々の間にある厚い壁を発見することができ、部内戦に留まらない、外部との積極的交流が技術向上のためには不可欠であると実感しました。現実世界でも、仮想世界でも、「常勝早稲田」を実現すべく、今後とも努力して参ります。

今後、私たちが多年にわたり大会運営を継続していくかは検討中ですが、大きな可能性を秘めたこの学生eSports、学生eモータースポーツをリードしていく存在となれるよう、挑戦を続けていきます。

最後となりますが、日頃よりご声援やご指導を賜っておりますOB・OGの皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

どうぞ今後とも、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

<参考リンク>

eSports by WUAC 公式サイト

https://sites.google.com/view/esportswuac/home?authuser=2

早稲田大学自動車部eSports Twitterアカウント(@wuac_esport)

Aリーグレース ハイライト

Bリーグレース ハイライト